対談Dr. Clifford J. Ruddleと

〜2019年来日直前インタビューから〜

__もう初めてお会いしてからずいぶんな時間が経ちましたが、その間にエンドを取り巻く環境も変わってきました。しかし治療の古典的な理論的根拠は今もなお変化のないものなんでしょうか?たとえばクラウンダウンやステップバック、プレエンラージメントといったテクニックは今もなお成功へ導く戦略なのでしょうか?

Ruddle とてもいい質問をありがとうございます。もう何十年も前にSchilderが述べたエンドの理論的根拠は、今もなお治療を成功へ導くものだと考えています。ただそういったコンセプトが存続する一方、そう、予測されるようにスタートからフィニッシュまでのあらゆるステップで、テクノロジーがそれらの変化を余儀なくしてきたことは、至極当然のことだともいえます。いわゆるクラウンダウンやステップバック、プレエンラージメントといったテクニックは事実それぞれ大変異なっていて、かつまたさまざまな方法で記述されてきましたが、いずれも予知性があり成功へ導くエンドを意図していることには変わりありません。ただ、細くて長くて曲がっているような根管において、今日術者が根管の歯冠側2/3のファイルを拘束するデンティンを最初に取り除いてしまうことは、今なお成功へ導く戦略なのです。プレエンラージメントを行うことで、予知性を持って根尖までサイズの小さなインスツルメントを到達させることができるのです。

対談中の奥村秀樹とClifford J. Ruddle氏

__ここ数年、小さく開けてより制限されたアクセスキャビティからエンドを行うことを提唱している人たちがいます。これについてはどのようにお考えでしょうか?

Ruddle 国際的、特に北アメリカではアクセスキャビティのサイズについては議論が絶えません。私は2011年にこの現象に気づいたのですが、ごく少数の人たちがMIE(minimally invasive endodontics)という、新しくもありませんがこのようなコンセプトを推進し始めたのです。これは崇高なコンセプトです。事実上エンドを行う全ての歯科医はデンティンを保存し最大限活用することなのですから。一方、私が47年エンドの教育に携わってきた中でいえるのは、過度に制限されたアクセスキャビティは根管の見落としや垂直性破折の特定を妨げたりすること、おのおのの症例を潜在的成功へ導くその後の数々のステップを危うくすることです。たとえば、いたずらに狭いアクセスは下顎大臼歯の近心中央根管や上顎大臼歯の近心頬側第2根管、さらにどの歯にもいえることですがイレギュラーな根管口を見落としがちです。これは私の意見ですが、制限されたアクセスキャビティは治療そのものの失敗を招きがちです。このような理由から私はこういった一時的な流行を支持しません。一方アクセスキャビティは大きすぎてもいけません。過剰に拡大されたアクセスキャビティは歯の構造を犠牲にし、強度を弱めて破折しやすくしてしまいます。究極的には、アクセスキャビティというものは、例えば複根歯の場合には髄床底の根管口の位置によって決定づけられるべきものです。アクセスプレパレーションは窩洞の軸壁がフレアーかつフラットに仕上げられてはじめて終了するのです。

__先生のエンドにおけるフィロソフィーはずばりなんでしょう?

Ruddle 奥村先生、あなたはすでによく知っているでしょう?そう、この40年間繰り返し言ってきたことを繰り返したいと思います。わたしのエンドのフィロソフィーは抜歯に匹敵するものです。抜歯が事実上100%の成功率を誇るのはいついかなる時も歯髄を全て取り除くからです。エンドは歯冠と歯根の構造を保護しつつ、抜歯のように全ての歯髄組織と細菌、それら関連物質を取り除くよう注力されるべきなのです。これが私のクリニカルエンドドンティックスのフィロソフィーです。アクセスキャビティは根管口の発見を促し、作業長までの再現性のあるアプローチから根管形成へとつながるのです。最も重要なのは、しっかりと形成された根管は三次元的なディスインフェクション(感染源の除去)と根管充填を促進することなのです。

__先生は今日のエンドの進化をどのようにお考えですか?

Ruddle 奥村先生、それはとてもいい質問ですね。とてもエキサイティングです。先生はもう何年もエンドに携わってきました。私たちは同じ診療哲学を共有したいと思います。その進化はエンドのクリニカルゴールに到達しつつあるのです。つまり完全なディスインフェクションです。

考えてもみてください。アクセスは歯髄腔の天蓋にアプローチし、根管口をみつけることが目的です。根管のネゴシエーションは根管形成のためで、特に重要なのは根管の形成を行う理由は3次元的な根管洗浄と根管充填を行うことなのです。そう、クリニカルエンドドンティックスのゴールは三次元的なディスインフェクションです。エンドにおけるディスインフェクションの現在位置と、今までの流れを変えるようなプロジェクト、それは今もなお進行中でクリーンな根管系を生み出すことが期待されるのですが、そういったことを考慮すると、私たちは3次元的なディスインフェクションに非常に大きな発展を見ることでしょう。そこには実にいくつか技術的なイノベーションがあり、議論の余地がありそうです。

数々の研究グループが、“成功の三要素”と私が呼んできたものについて努力しています。エンドの三要素とは根管のネゴシエーションと形成、3次元的なディスインフェクション、そして根管充填です。私たちのチームは素晴らしいテクノロジーを発見しました。それは疲労限度(the endurance limit)のコンセプトを利用するのものなんですが、根管のネゴシエーションを機械的に行ってしまえる可能性を秘めています。一昨年のAAEで少し披露したのを覚えているでしょう?さらに根管形成については、その最終形態はより小さなサイズへと向かうようになるでしょう。私は形成量が不足しているような状態をいっているのではありません。特に歯根外形に陥凹があるような場合もそうですが、一般的に根管形成がより保護的になりうることには同意できます。これは私の考えですが、洗浄液の交換のためにはいまだディープシェイプ(根管深部のテーパー)が必要なのです!ただ術者が十分に拡大形成を行おうと最小限に抑えようと、それらに関わらず、デザインやマテリアル、熱処理などシェイピングファイルの進化は続くでしょう。ただ実際のところ、未来のファイルはステンレススチールなのか、金属学的に機能を高めたNiTiなのか、はたまた金属ではないのかもしれません。

感染源の除去を見ても、洗浄液の交換方法を改善しようと絶え間ない努力が注がれています。流体力学的な効果をさらに得られるよう、様々なグループが機械的あるいは光学的な方法、音波などを使用しています。種々の新技術はそれに使用される洗浄液とセットで登場してくるものですが、例えば特定の光によって活性化される洗浄液は一重項酸素を発生し、次々にバクテリアの内部崩壊を起こさせて殺菌してしまうのです。いずれもポテンシャルを秘めてはいますが、究極の感染源除去をめざすいかなる方法もエビデンスに基づかねばなりませんし、使いやすくて入手しやすいものでなくてはなりません。それは現時点ではエンドアクティベータ®(Dentsply Sirona)です。19の学術論文によって支持され、6万人の歯科医師によって日々使用されています。

我々が根管洗浄を改善したように、根管充填についても少しお話しましょう。南カリフォルニアに、Nathan Lee先生というデンティストに営まれるヘルスデントという歯科材料開発メーカーがあります。彼は従来のガッタパーチャマスターコーン(GPMCs)の作成方法をひっくり返すような、新しい加工技術を生み出したのです。その誤差は機械加工誤差に匹敵する、つまりもしシステムベースのエンドを行っているなら、最終形成ファイルとそれに一致するGPMCがその根管にぴったり一致することを意味します。Dentsply Sirona(DS)はHealthdentを買収し、現在GPMCの分野において業界トップとなりました。同じように重要なのはDS GPMCはナノテクノロジーと呼ばれる技術を通して、材料の構造を改良したことです。この特異な技術は結果的に熱軟化する他社GPMCのヒートウェイブよりも50%延長することに成功しました。

またさらにDSはNathan Lee先生と共同でデンティンと強固にインテグレーションするようなスキャホールドマテリアルを使用した、革命的なキャリアベースオブチュレータを開発中です。新しい再生を促す材料とは骨の成長を促進し、より生体適合性が高く立体的に安定で、生物学的に不活性なものでしょう。そして十分に拡大形成されていようと、形成が最小限に抑えられた根管であろうと、いずれも充填可能な材料とその方法における大変な発展を見ることになるでしょう。

__最後に日本のエンドの将来についてコメント頂けないでしょうか?

Ruddle ワァオ!私は実に日本のエンドの将来は刺激的なものだと思っていますよ。特にこの過去15年から20年の間に、私が個人的に見てきたものの変化を考えるとね。だから日本のエンドが向かう先を見るときに、テクノロジーや教育、そして情熱を通して何千という日本のデンティストが目覚めることを確信しています。日本歯内療法学会は私たちの専門分野を引き上げ、その最大の可能性へ近づける真の意味での機会を有しているのです。最大の可能性とは、つまり予知性が高く成功率の高い治療のことです。未来はとても明るいのですよ。アメリカにティムバック3というミュージックグループがいました。彼らは1986年のトップ20となったシングルで最もよく知られているんです。その曲の名前をお教えしましょう。“The Future’s So Bright, I Gotta Wear Shades. (未来が明るすぎて、サングラスがいるよ!)”

最後に奥村先生、このインタビューをありがとう。しかし先生の専心とエクセレンスへの飽くなき探求にこそお礼を言いたいところです。今後の活躍を期待しています。

__お忙しい中、興味深いお話をほんとうにありがとうございました。感謝の言葉もありません。今度の東京でのご講演を楽しみにしております。

Ruddle 久しぶりの訪日と日本の先生方とのディスカッションを、私も大変楽しみにしていますよ!